謡う鯨

映画やドラマを観たり芸術について考えたり書籍やコスメを爆買いしたりする。SF小説が好き。美術館や博物館にしばしば出現します。

【MARK RYDEN / 不思議サーカス】

MARK RYDENという名前を聞いて、あの絵が、画家が、思い浮かぶ人はどれほどいるだろうか。私がこの画集を初めて目にしたのは、2006年の春だった。今となっては、彼の画集も種類が増え、絶版になったものを除けば、以前より手に入りやすくなった。(ありがたい話である)

当時『不思議サーカス』は新刊として、近所の書店に並んでいた。個人経営の書店だったにも関わらず、売れ線以外の書籍も置くのだという信条を掲げていたそこは、今も昔も、お世辞にも外交的とは言えない私にとって、シェルターのように機能していた。ちなみにこの本屋は既に潰れている。当時12歳だった私には、約3000円の画集を一思いに買う勇気も、お金もなかった。そうこうしているうちに画集はその書店から消える。再び出会ったとき、私は16才になっていた。

マーク・ライデンはアメリカの画家。絵本の世界のような不思議生物と少年少女の組み合わせは、一見すると非現実的でほのぼのしているようにすら思える。けれど、不思議サーカスに集録された絵に出てくる生物たちは、多くの場合、血や汗や、涙を流す。責めるように、訴えかけるようにこちらに視線を向けてくる。きっとわたしは、おとなになった今も、彼らの視線に囚われ続けている。風刺に満ち溢れた幻想世界で、夢と現実と悪夢を行き来している。